ブログ
オレトク決勝|HL2022

誰のためでもない、とにかく自分が欲しいものをこだわって作った「オレトク作品10選」

2022.12.31

※この記事は、ProtoPedia Advent Calendar 2022の11日目の記事になります。

ヒーローズ・リーグ 2022のコミュニティ賞の1つであるオレトク賞の決勝審査会のブログになります。
オレトクとは、「誰のためでもない、とにかく自分が欲しいものをこだわって作った作品」
突き抜け度、こだわり度、完成度などを中心に、オレトク度を感じた作品が選ばれます。

例年は「尖った狂気的作品」が多かったのですが、今年は継続作品が多く、半端なく完成度の高い作品に審査が難航し、来年からの運営方針を変える決意をさせられるほどでした。
審査員からも、「今年のオレトクはどの作品を素晴らしく、いままでであれば、優勝をかっさらうような作品が多かった。」とのコメントがありました。
ある意味、「時代の変わり目」的なものも感じたのでブログに残したいと思います

それでは早速、決勝に残り、発表された10作品の紹介をしたいと思います。
まずは、オレトク賞に輝いたこの作品から!

2022年度のオレトク賞はこれだ!

Glowing Air-Bubble 3D display

煌めきながら液中を上昇する気泡群で3D形状をリアル表示可能、Glowing Air-Bubbleシリーズver.4

原点は1994年のアイデアコンテストで描いたもの。当時は具現化する時間も技量もなかったけれど、2019年に安価なパーツを見つけたことをきっかけに、今なら具現化できるのではないか?と作り始めたとのこと。
ver.1:水中での気泡表現に成功
↓ 具現化したものの数字の品質がきになり
ver.2:グリセリンを利用して品質UP
ver.3:4文字同時表示の表現を可能に
ver.4:3D表示(8×8)の表現を可能に
ver.4で、ようやくアイデアをすべて具現化。

この作品は、毎回異なる崩れ方をしたり、季節や時間(温度変化)によって様子が変わります。
2019年から実際に作り始め、気づいた本作品の本質は、この「電子的なデジタル表示ではないところ」とのことでした。
(発表動画は1:21:59 から)

ずっと見ていたくなる作品です。床の間で飾られ、プレゼン中ずっと稼働している様は、まさに「自分のために作った作品」を象徴しているかのように感じました。また、昔思い描いていたものが、技術の民主化によって形になったところも個人的には胸アツでした。アイデアはいつまでも温めておきましょう!2022年オレトク賞受賞、おめでとうございます!

作品紹介

それでは、今回「オレトク賞」の決勝に選出されたすべての作品の紹介をしたいと思います。

朝夕日和 | 一期一会の朝日と夕日を探しに行こう。

朝日や夕日を見に行ったのに見えなかった問題を解決するアプリ

発表動画は15:19から

地域資源を元に朝日と夕日の見える度判定をサーバから返して、地図に表示するAPIを開発。現在地をもとに、結果を地図に表示します。
また、毎日「見える度判定」を集計。「365日後にはその場所から最もきれいに見える日などもわかるようになるかもしれません。」 とのこと。

地域資源をもとにして計算しているので、朝日や夕日がきれいに見えるスポットがわかるのではなく、有名なスポットのいつならば、朝日や夕日が綺麗に見えるか?ということがわかります。
「温泉に入りながら朝日を眺めるって最高じゃないですか!」と熱く語る開発者さん!そういうところを見つけられます。
(発表動画は15:19から)

こちらの開発者さんは、作ったアプリは必ずご自分で検証されているため、きれいな朝日や夕日の写真がたくさんでてきます(ずるい)。また、プレゼンでは触れていませんでしたが、この方角から太陽が見えるよというナビがあるなど、細かな実装にもこだわりまくった作品でした。

チーズ星人ごっこ

2000年ごろにCMに現れたチーズ星人を、技術(Joy-Con+Unity+自作モータドライバ)で再現!

人差し指をだしながらJoy-Conをふると、それを検知してチーズがカップ麺にかかり、チーズ星人ごっこを体験できるだけでなく、その後迷惑メールも届くというこだわり作品。

このシステムはチーズをぶっかけるマシーンに目が行きますが、実はモーターを動かすためのモータードライバーデバイス(非公式ATOM Motor driver kit)をゼロから作ってます。
また、Joy-Conの信号をUnity上で処理する事で、他のデバイスへ送ったり、チチチチというチーズ星人の声と合わせて動かす事を実現。
技術的無駄遣いこだわりがすごいんです。

技術だけでなく、体験的な部分(迷惑メールやぶっかけマシーンの設計など)もかなりこだわってますので、ProtoPediaのページ見て!
(発表動画は24:58から)

一見(?)、誰のなんの役に立つのかわからないこの作品に、ここまでの情熱をそそげるのは、まさにオレトク。そして、作る過程をも楽しんでいるのは、とてもヒーローズ・リーグらしくも感じました。

農業用直進ガイダンス

農業用のRTK-GPS / GNSS直進ガイダンスを、田んぼでデバックしながら自作!


RTK-GPSを使いA点-B点座標から 基準線に平行線に対してどれだけ離れているかを三角関数を使い計算。離れた距離をアナログメーターで表示し、ずれていたら手動でハンドル制御。ナビプログラムはQiitaで公開しています。

自分の使いやすさを追求して年々バージョンアップしているこの作品。こだわっている点は以下の3点とのことです
①操作性:手袋してても操作しやすい物理ボタン
②視認性:単純なズレ表示したりLEDなども
③現場でデバック:Pythonなのでコンパイル不要
安全に再起動できるボタン設置やSDカードの予備も準備
(発表動画は34:22から)

「田んぼでデバック」というパワーワードに、コメント欄が大盛りあがり!ガイダンスのおかげで、1つ飛ばしで大回りしながら運転できることが可能になったという実績付き。市販だと100万するものを8万ぐらいで制作し、年間で約120時間以上使いながら毎年バージョンアップしているところもすごいです。

タイプライター・キーボード

打ち心地のよいキーボードを求めて、150年の歴史がある「タイプライター」をキーボード化

こだわった点は、タイプライターのもつ打鍵感を保つため、なるべく非侵襲で打鍵を検知すること。そして外観・構造も保持。
ハンマーの位置に合うように、0.1mm単位で基盤を設計し制作。構造上、ハンマーが出てこないものは検知できないため、スペース、シフト、キャリッジ・リターンはできないまま応募。
けど、作りました!(そしてデモで見せる)。
スペースとリターンでだいぶ実用的になったので使ってみたいと思います!とのことでした。
(発表動画は42:38から)

スペース、シフト、キャリッジ・リターンをつくったのは、発表日当日の朝!できたてほやほやなので、使いながらの進化はまだこれからですが、実用性度外視で、自分の興味のままに作品が進化していく様に、とてもオレトク感を感じました。最高の打鍵感も味わいたいけど、デモでのキャリッジ・リターンが気持ちよさそうで、それもやってみたい!

マイクロビットでそれなりに大きな100均ロボ<審査員選出2位作品>

マイクロビット2個と、回転サーボモーター1個と100均素材でつくった、高さ30cm弱のリモコンロボ

安い、早い、巧い!100均ロボットというシリーズで、いろいろなロボットを作っている開発者さん。ときには巨大ロボットプロジェクトもしていますが、同じ動きの繰り返ししかできないのが弱点かなと感じ、操縦できて、なるべく大きなものをと思って作ったのがこの作品とのこと。

マイクロビットのv1をコントローラに、v2をロボットに仕込んで動かします。てこクランチやラチェットを駆使してロボットのすべての動きを回転サーボモータで1個で実現。
1つの回転サーボモータの正逆転で、首、両腕と胴体を動かし、左右の腕も別々に制御できます。
(発表動画は50:05から)

この材料でこれだけのものができるって…。もはや芸術の域ですよね。「組み立ては簡単」とプレゼンしていましたが、このからくりは、変態じゃないと作れません。(褒め言葉)

論理演算式コントローラー

一人用ゲームをふたりで遊べるコントローラー(別名:いつものゲームを難しくするコントローラー)

2つのコントローラーの状態を論理演算し、その結果がコントローラーとして動作。
例えばANDは、二人が同時にコントローラを操作して初めて動きます。片方だけだと動きません。
さらに上級者向けにボタンと十字キーの配置が変わるランダムモードや、最大4名まで同時に楽しむことを可能にするマルチタップもあります。

難しすぎてなかなか説明もできないですが、必ず正解があるので、プレイしながら「あ、こうすると動くのか」というときの「ふふ」って感じがとてもいい。
「ジャンプジャンプ」って思わず声がでるのもいい。XRは役割分担ができるなど、違う遊び方の発見もあった。とのことでした。
(発表動画は1:12:00から)

ゲームを楽しむというよりも、コミュニケーションを楽しむコントローラでした。実際に展示会では多くの親子が楽しんでいましたが、親が子供に教える様がとても微笑ましかったです。親世代はどこにキノコがあるのか知ってるんですよね。すべての親がどやって、子供に教えてました。

パイロン誘導草刈機 ー Roktrack Mower

草を刈りたい場所をカラーコーンで囲みスイッチを入れるだけで草刈り出来るロボット草刈り機

山奥に住んでて、草がすごい。草刈りは大変なので自動かつ、どこでも使える草刈り機が欲しくてつくったとのこと。
・タイヤ:段差があってもすすめるよう、クローラー式+偏心タイヤを採用。5cmの段差でも乗り越えます。
・草刈り部分:RS-775モーターを2つ逆回転させて実装。ツインモーター採用により、耐久性を維持したまま刃を極めて鋭いカッターの刃にすることができ、30cmぐらいの草刈も可能に。

そしてモードは2つです。
1.Fill :パイロンを置くだけで、その範囲を草刈り(40m離れたパイロンまで認識可能)
2.One-way :直線状に並んだパイロンをなぞるように草刈り(ex.畦草刈りなど)
(発表動画は1:30:52から)

炎天下で、手持ちの草刈り機での草刈りって本当大変(うちの父、これで倒れました)。ほしいのは、富裕層用の芝刈り機じゃなく、オフロードでつかえる草刈り機ですよね。段差はあるし、草も強い。次々と現れる課題をのりこえ、試行錯誤が実装された作品に感じました。なのに、それが楽しそうにも見えた大好きな作品です。

ゼンマイじかけのデジタルムービーカメラ

70年ほど前につくられた8mmフィルムカメラをデジタルカメラに改造

「昔のカメラ、めっちゃかっこいいんです。でも、現像できないし、タンスの肥やしになるしかない…。」そう語る開発者さん。
カメラの操作性をそのままに、デジタルに改造したのがこの作品です。

フィルム室には、自作のデジタル撮影モジュールを配置し、シャッターの動きをフォトリフレクタを使って検出。シャッタータイミングに合わせて、Raspberry Pi Zero 2Wで制御を行い、Raspberry Pi Camera V2から画像を取り込みMP4ファイルとして出力します。
そしたら、こんなエモい画が撮れるようになりました。(是非ProtoPediaページで動画見て!)

こだわったのは操作性の再現とのこと。撮影は難しいカメラですが、昭和のカメラマンの気分になれるそうです。
(発表動画は1:39:17 から)

プレゼンの殆どの尺を、カメラのコレクション説明につかうスタイル、嫌いじゃないw。とてもオレトク感のあるプレゼンでした。昭和っぽい色みに関しての質問が入っていましたが、シャッタータイミングの同期でフォトリフレクターを使っているので、赤外線が横から入り込んで赤みが増している可能性があるとのことでした。

ライディングテクニック向上ロガー<審査員選出3位作品>

バイクの動きの5要素を、バンク角/ハンドル舵角/サスペンション伸縮/GNSSセンサーで完全記録しバーチャル再現

データの見える化や上級者との同期比較でライディングテクニックの向上を支援します。
上級者との比較の際は、パイロン位置をキーフレームにし、再生速度を自動調整して同期させることで、走行速度が違っても比較しやすくしています。可視化アプリも自作。

ドヤポイントは、サスペンションストロークセンサーを、キーリールの回転角から紐の繰り出し量(=ストローク量)で得ているところ。100均のキーリールを分解して、板バネと紐はそのまま拝借して実装したそうです。
(発表動画は1:48:24から)

ログ取得と可視化アプリを作っただけでなく、タイム差がある走りを比較可能にするためにしている工夫(パイロンや再生速度自動調整)も素晴らしいなと思ったこの作品。「変わったバイクの楽しみ方をしてるなと(自分で)思っています」というコメントに、オレトク感を感じざるを得ませんでした。

審査員

今回の作品のジャッジをしてもらったのは、こちらの3名でした。
・山本 大策氏(Egg Forward, Inc. Chief Innovation Officer)
・久下 玄氏(tsug.LLC、STORES,inc/デザイナー・エンジニア・ストラテジスト)
・栗原一貴氏(津田塾大学情報科学科 教授 / Coolied, Inc. CTO)
MashupAwards時代から、数年間、応募作品を見続けていただいているお三方です。

今年のオレトクは過去最高に審査が難しかったようで、こんなコメントを残されていました。
・どの作品もチャンピオン級で、審査の「あきらめ」を認めざるを得ない年だった
・軸がかわればトップが変わる作品ばかりで、一つの土俵で審査しきれなくなっている
・狂気度合いが同じだと、年月をかけた作品のほうが完成度や見え感が強くなる
・半年前に思いついたすごい狂気が残れなくなるのはちょっと違うしな…

審査会の様子はYou Tubeにてすべて見ることができます。
オレトクの発表は、ドヤ顔ばかりなので、是非そこに注目して見ていただきたい。

みんなのつぶやきもまとめてます。
 →togetter:オレトク2022はver4まで作り込んでいるあの作品が! #ヒーローズリーグ


皆様お疲れさまでした!

蛇足

やっぱり、オレトクの決勝は楽しい。作品から、好きが溢れでているんです。だって、誰のためでもない、とにかく自分が欲しいものをこだわって作っってるから。
好きなことだから、こだわりも細かいw。
誰かのためじゃないから、妥協もしない。妥協するどころか、形にしたら、「もっとこうしたほうがいいかも」という次の欲求が生まれてまた作る。そしてどんどんと完成度が高まっていく。
そんな作品の発表は、情報密度が濃いため、4分では作品の良さを伝えきれないよな…と思う点があったり、審査員の質問や参加者のコメントではじめて理解できたことも多かったり。
オレトクで発表されるこだわりって、作品をみてぱっとわからないところにあることが多く、そこがマニアであればあるほど、なんか好きです。

ただ、審査員の方がおっしゃっていたコメントと近しいのですが、完成度の高い作品が多すぎて、キラリと光る(?)狂気というか、瞬発的なものづくりの未完成なワクワク感というか、そういったオレトク作品のこだわりも聞きたいなと思う気持ちもありました。

実は、一次審査の時点でも、来年のオレトクはちょっと変えようか…なんて話がでていました。
というのは、オレトクはやっぱり説明してもらわないと、その人のこだわりポイントがわからないところがあるため、「我こそは!枠」を作ろうかと言う話をチラッとしています。
決勝での今年の反省も踏まえ、来年のオレトクは違った形になりそうです。

ヒーローズ・リーグの前身でもある「MashupAwards」時代は、決勝よりも準決勝のほうが楽しいと私は発信していました。ヒーローズ・リーグも、決勝よりオレトクが楽しいとなってしまう予感?(あくまで私の感想です)
さて、来年はどうなるかな?私が一番楽しみです。

関連する記事